その夜 月は青白く 死人の顔にさも似たり。

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2006-08-16

「私は 謝っても謝っても許してもらえなかった 徹底的に虐げられた 修復不可能なまでに 深く深く深く傷つけられた」

と 地下室の男は云いました。 天井から滴る水にくるぶしまで浸かり 頭からぐしょ濡れで 泣いてるのか笑ってるのか判らないくらいに顔をひしゃげて 地下室の男はうめく様に云いました。

「ひどい扱いをされてきたのだよ 拒絶されて孤絶して否定されて唾棄されて そんな扱いに抗おうとしても頭から押さえ込まれて殴りつけられて地べたにのされ 吐いた血反吐をバケツに集められて 溜めたソレを頭からぶっ掛けられる そんな扱いだよ」

彼 ランプを持った右手 妙に萎びた右手をゆるゆると上げて。

「私の指先は痺れて動かず ねじくれたまま固まってしまった 私の右耳も拉げて聞こえず 眼も白く濁って先が見えない どれもこれも 今まで受けてきた仕打ちの所為で」

火傷に引きつってデコボコの肌 ランプの明かりに陰影浮かび。

「何がきっかけで こんな扱いをされるようになったのかは わからない ある日突然 こうなってしまった。 私は きっかけがなんだか知らないけれども 私が仕出かしてしまった取り返しの付かない何かの所為で 私は虐げられているのだ と考えた。だから一生懸命 ソレを償おうとしたのだよ けれども 何をしてもダメだった 『そんなモノで許されると思ってるのか』と 殴られ蹴られ倒されて。 自分の何が悪いのかと聞いても『自分で考えろ』と嘲笑われて踏みにじられた。 償いと謝罪の言葉には罵詈雑言誹謗中傷で返されて それに対してのちょっとした反抗には 更に数倍の暴力で答えられた」

彼 皺だらけの顔 実年齢よりも何倍に年老いて見えるであろうその顔 眉間に刻まれた縦皺 深く より深く。

「私は考えたよ 私の何が悪かったのか。 考えて考えて考え抜いて あるとき唐突に気が付いた。 『私は悪くない』と。 悪いのは私を嫌って拒絶する私以外の全てである と気付いたのだ。 私は私に一切の非もなく ただ悪意によって 世界に傷つけられたのだ だから私は報復すべく 私に与えられた傷に等しい傷を与えてやろうと 世界に傷をつける方法を探すことにした。 君にはわかるかね 世界に 取り返しの付かない 修復不能の 致命的な傷をつける方法を。 世界をホツレさせる綻びを見つける方法を」

分かるわけがない 世界なんて抽象的なものに傷をつける方法なんて あるわけがないですよ

「ああ 探しても探しても 見つからなかった あらゆる方法で世界を傷つけようと傷つけても 世界は傷つかず 終わらず 滅びなかった」

だから無理なんですよ そんなにこの世がいやだってのなら むしろ自分のほうがこの世からオサラバしたほうが 早いです。

「うん そうなのだよ 世界を終わらせること=自分を終わらせること なんだ。 それに気付いたんだ だから」

だから?

「世界を傷つける方法ってのは 身近にあった。 世界を傷つけようとする以前に 世界は既に傷つけられていた。 あと一本 するりと糸を抜くだけで 世界は綻び解けて滅びて終わる そんな方法が。

いいかね 世界=私であるのならば 『世界に傷つけられた私』自身が『世界につけられた傷』なのだよ」

そう云って彼 自分の顔 眉間に刻まれた深い深い縦皺 両手をかけて真っ二つに 引き裂いた

引き裂かれた彼を真ん中に 静かに世界は綻びはじめた。
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Comment

初音 : 2006-08-26(Sat) 20:04 URL edit
何時も楽しく拝見させて頂いてます

この話を読んだら何だか泣きたくなりました。
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