さるのて

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2006-04-30

僕には双子の兄がいて 今は離れて暮らしているのでありますが。

その兄が僕の部屋に訪ねてきたのは今日の昼時。 僕 原稿用紙にシャーペンでカリコリと ちょっとした書き物をしていたときのことです。 手にはグルグルと布巻いたデコボコの棒状を携え ソレを僕と兄さんとの間にコトリと置いて 云いました。

「何故 『猿の手』が願い事を三つ 叶えてくれるか考えたことはあるか?」

猿の手って あのジェイコブズの短編のですか? たしかインドの行者が掛けたマジナイで 『人の生涯は定められしもの、逆らう輩はそれ相応の報いを受ける』ってことを示す為に 三つの願いを叶えてくれるんでしたっけ

「うむ。 だが 何故『猿』の手で 『三つ』の願いなんだ? 別に人の手でも 願いが一つでも四つでもいいと思わないか?」

いろいろとキリがいいんでしょうよ。 よくある童話のモチーフじゃないですか ペローの童話にも似たのがありましたね

「ああ 『三つの願い』って題名そのもののヤツな。 一つ目の願いで大きなソーセージが欲しい 二つ目が このソーセージが婆さんの鼻にくっ付け 三つ目が 婆さんの鼻を元に戻して欲しい だったな。 どうしようもなく低脳なお前にしては良い点に目をつけたじゃないか」

ぐッ… 何が云いたいのですか

「『猿の手』と『三つの願い』ってのは 構造的に同じだろう。 最初の願いで ちょっとした欲深さからの取るに足らない願い(お金が欲しい・大きいソーセージが食べたい)。 二つ目の願いで最初の願いが叶ったことで起きた不満の解消の為に通常では起き得ない事を叶えてもらい(死んだ息子を生き返らせて欲しい・こんなソーセージ、婆さんの鼻にくっついてしまえ) 三つ目の願いは その通常では起き得ないことが叶ってしまった為に その二つ目の願いを打ち消す願いを叶えてもらう(息子を安らかに眠らせてくれ・婆さんの鼻からソーセージを取って欲しい)。まさしく『人の生涯は定められしもの、逆らう輩はそれ相応の報いを受ける』じゃあないか」

まあ それはいいんですけれども それよりも何で『猿』の手で『三つ』の願いなんです?

「馬鹿愚かなお前のために わかりやすく教えてやろうか。 まず 俺の手を見ろ」

生命線が切れてますね

「そんなところを見るな。 いいか 人の五本指ってのは 人間の二つの美徳と三つの悪徳を示しているという。 二つの美徳ってのは 『智恵』と『慈悲』。三つの悪徳ってのは『貪欲(とんよく)』 『愚痴(ぐち)』 『瞋恚(しんに)』で この三つの悪徳を仏教における三大煩悩という」

へえ 兄さんは物知りだなあ

「貧欲ってのは『足るを知らない欲深さ』 愚痴は『済んでしまってどうしようもない事を繰り返し後悔すること』 瞋恚は『思い通りにならないことに腹を立てること』だ」

で それがどうかしたんですか?

「まだ気が付かないのか無知蒙昧が。 この三つの煩悩は さっき云った『三つの願い』に対応しているだろう。

一つ目の願いは貧欲のため

二つ目の願いは瞋恚のため

三つ目の願いは愚痴のため

だ。 三つの願いは この煩悩のために願われたのだから 『人の生涯は定められしもの、逆らう輩はそれ相応の報いを受ける』を示す為に 望まない形で願いを叶えてくれるって訳だ これが 願い事を『三つ』叶えてくれる理由だと思う」

んじゃあ なんで『猿』の手なんです?

「ああ 別に人間の手を使ってもいいとは思うのだが 考えてみろ。 人間にはあって 猿には無いもの。 さっきの手の話だぞ 人間には二つある美徳 『智恵』と『慈悲』が 猿にはない。 猿にあるのは果てない『貧欲』 底なしの『瞋恚』 無尽蔵の『愚痴』だ。人間の比でない煩悩の塊だからこそ 願いを叶える媒体となる」

ふふん お話はわかりました。 わかりましたが なんで そんな話を 今 するんです?

「ああ 今の話のワケか? それは これだよ」

と 兄さん 僕との間に置いていた グルグルと布巻かれた棒状の布を スルスルと解いていくと 干からびた腕 腕だけのミイラ

「ふふふ どうだ ビックリしただろう」

まさか兄さん それ 猿の手ですか?

「いいや 人の手」

うわ 余計 タチが悪い

「大丈夫 俺が殺したわけじゃない。 ちょいと孤独死して人知れずミイラ化していた独り暮らしの老人の手を すこしばかり拝借しただけだ」

どちらにしても犯罪行為ですよ。

「まあ聞けって。 俺は猿の手を捜しだして うまい具合に願いを叶えてもらおうとしたんだけれども 猿の手なんてそう簡単に見つかるワケが無い だったら自分で作ろうと思ったわけだ」

じゃあ なんでその孤独死したお爺さんの手を?

「ああ それはアレだ 『泥田坊』って妖怪を知ってるか」

あの 『田を返せー』っていう一つ目三本指の?

「そうだ その泥田坊が三本指である理由を知ってるか? それはアレだ さっき云った人間の二つの美徳 智恵と慈悲を失ってしまい 三つの悪徳だけのモノとなってしまったからだそうだよ」

へえ そうなのですか

「即ちだ。 この孤独死した老人の右手のミイラから 智恵を表す人差し指と 慈悲を表す薬指を こんな風に もぎ取ってしまえば 猿の手の代用となる ってことじゃあないか? そうして こんな具合にマジナイをかけてやれば …はい! 出来上がり!」

うわ もぎ取って さらに死体損壊させて 知りませんよ。

「いいじゃないか 願い事を叶えてくれるんだぞ? なんだったらお前の願いを叶えてやってもいい とも思ってるんだが」

え 僕の願いも叶えてくれるんですか

「俺だって肉親の情くらいあるぞ。 一つ目の願いは俺自身のために 二つ目の願いは親のために。 三つ目の願いはお前のために叶えてもいいと思ってる。 お前の夢である『声優と結婚したい!野中藍と!』の願いをな!」

人を勝手に声優好きにしないでくださいよ。そんな願い事 叶えてもらいたくないです。

「何を水臭いことを。俺は 弟であるお前のためなら なんでもしてやるぞ。 金閣寺に放火してもいいとも思っている。その罪をお前に擦り付けてもいいとも思っているんだぞ」

結局僕の仕業になってしまうじゃないか

「まあ いいじゃないか。 とにかく この『猿の手』ならぬ『泥田坊の手』で 願いを叶えてみようじゃないか。 じゃあ一つ目の俺の願いは そうだな… 『大金持ちになりたい!』 …あれ?」

え どうかしましたか?

「いや 俺が掛けたマジナイが成功して このミイラの手が猿の手化したのなら 願いをかけた時に 動くはずなんだが 動かない」

失敗したんでしょうね

「ああ 何かが足りないせいで失敗した。 成功したら お前に掛けていた生命保険のおかげで 俺 大金持ちになれてたのに」

や 僕 死んでしまうじゃないですか

「なあに 失敗したんだから 結果オーライだろう」

ぐむうッ! なんか納得いかないかあ

「きっと アレだ。 あの孤独死していた老人の 煩悩の総量が足りなかったってことだろう。 もっと 煩悩の塊みたいな人間の手を使って 『泥田坊の手』を作っていたら きっと大成功していただろうに 残念だなあ」

ねえ 兄さん その泥田坊の手に 相応しい人を 知らないでもないよ

「ほう そいつぁ誰かね」

目の前にいるよ 兄さんのことさね

と 僕 握ったシャーペン 兄の右目に刺し込んで ぐるりと抉って捻って。
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Comment

名状しがたきもの : 2006-05-01(Mon) 15:02 URL edit
これはいい
ららら。 : 2008-03-09(Sun) 01:12 URL edit
とても面白いと思いました。
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