入院中のミドリさんから聞いた話のニ 首縊坂のこと

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2007-06-05

「どうしたんですか そんなに汗だくになって。 汗だるまじゃないですか 汗だるま親方じゃないですか」

や だってこの病院 ものすごい坂道の途中にあるじゃないですか ちょっとしたハイキングコース並みの。 自転車で登るのは拷問にも等しい。 おまけにこの陽気ですもの 汗が滝みたいに流れるものです

「ふふん 佐々木(仮名)さんが死にそうなツラして坂道をチャリンコ立ち漕ぎしてたの この部屋の窓から見えてたよ」

なんだ 見てたんですか どうれ ああ 確かに この部屋の窓 あの坂道に面してますね

「ああ それにしても なんか喉が渇いたわねえ なにか 甘くてさっぱりしてて汁ッ気たっぷりのフルーツが食べたいなあ」

ちぇっ この窓から見ていたんでしょう? 僕がスイカを二つ 袋に入れて 自転車の前カゴに入れてたの。 ものすげえ重かったんですよ 疲れて足もふらふらです 

「ふうん ところで佐々木(仮名)さん 坂の上から なんか転げてこなかった? 皿とか 徳利とか」

え そんなの転げてきませんでしたけれど どうしてです?

「うん 佐々木(仮名)さんみたいな人だと 出くわしやすいと思ったんだけれど 見なかったんだ」

いえ なんも見ませんでしたが

「この坂道にはちょっとしたアレがあってねえ。 延々と続く坂道にうんざりして ああ まだ登りきれないのか なんて坂の上のほうを見やると そんな時に限って 皿とか徳利とか 色んなものが転げてくるのよ」

そりゃまた 一体どうしてです

「実はね この坂の上にはね とある夫婦が住んでいたの。仲はいいんだけれども癇癪持ちの妻と喧嘩っ早い夫なものだから 夫婦喧嘩になると 家の中のもの のべつ幕無しに投げ合って。 んで窓から飛び出した食器とかが坂道を転げ落ちてくるのが この坂の風物詩っちゃあそうだったんだけれども」

ふうん 迷惑な夫婦ですな

「それでね ある日のことよ 夫婦喧嘩中に もう癇が極まっちゃったんでしょうね 双方包丁取り出しての刃傷沙汰よ」

うわあ で どうなったんです?

「チャンチャンバラバラの末 家の外にまで飛び出した二人は 勢い余ってお互いの喉笛をほぼ同時に切り裂きあって 二人仲良く絶命したって寸法」

え 死んじゃったんですか?

「坂の上から下まで 綺麗な血の道が二筋 流れたそうよ。 その事件がおきてからもう何十年も経ったけれども 時々 その夫婦が住んでいた家のあたりから 皿とかが転がり落ちてくるの」

ふうん 不思議な話もあるものですね

「おっと まだ話には続きがございましてよ? その転げ落ちてくる皿なんかを見た後に 『この坂の上には昔 夫婦者がいて お互いに殺しあったのだよ』なんて噂話をすると 『今も殺しあってるぞー』って声がして 坂の上から男の生首と女の生首が お互いに咬み合いながら 転げてくるんだってさ!」

なんか 今にも坂 とか 油すまし の類話ですね

「まあ ありきたりの話っていえばそうかもね。 で スイカは?」

うわあ すいません 自転車のカゴに置きっぱなしでしたよ すぐにとってきます!

「別にいいわ そんな この陽気でうだってぬるいスイカなんて 食べたくもない」

う すいません

「今度来た時はアミアミのメロンね あまくって汁ッ気たっぷりのやつ」

ぐむぅ 高くつきますな

「まあ それはさておいて。 さっきの話が本当かどうかは別にしてよ この坂 なにかあるわねえ」

何かって 心当たりでも?

「この坂 急な上に長いじゃない。 登るのも難儀だけれども下るのも厄介なものなのよ。 下りでスピードがつきすぎて壁に激突したり転倒したり自動車に轢かれたりで すぐさまこの病院に担ぎ込まれる怪我人が後を絶たないのね」

まあ 立地的に担ぎ込まれるのに好条件ですし

「んでね。 この坂道を自転車で下るとき ブレーキをかけっぱなしの人が結構いるのはいいのだけれど 時々いるのよ 古い自転車でよくある ブレーキをかけると 『ぎぎぎぎしぎしぎぃぃいいぃぃぃいぃいぃいいぃいぃい』 って音立てるやつ」

ああ あの不愉快極まりないさび付いたポンコツブレーキ音ですな

「うん 坂道の上から下まで ゆっくり長く 途切れることのない不快な音が この部屋の中にまで届いてきて 何度耳を押さえたことか」

でも この急な坂道ですもの しかたないですよ 我慢しなきゃ。

「その我慢も限界。なにしろ その『ぎぎぎぎしぎしぎぃぃいいぃぃぃいぃいぃいいぃいぃい』って音が聞こえてくるのは 決まって毎週火曜の深夜二時よ。 安眠妨害にもほどがあると思わない?」

そんな時間に 自転車が?

「そんな時間に自転車が よ。あたし もう我慢の限界で せめてどんな輩がそのポンコツ自転車に乗ってるかを確かめてやろうと思って 先週の火曜日深夜二時 窓際でスタンバイしてたのよ あ 別にどんな輩か確かめてもどうこうしようとか思ってないから ええっと 道路を横切るように ちょうど首の位置にピアノ線を張ろうだなんて 全然なんだからねッ!」

なにをそんなにむきになっているのです。

「まあ ソレはともかく。 窓際でスタンバイしていたあたしの耳に 『ぎぎぎぎしぎしぎぃぃいいぃぃぃいぃいぃいいぃいぃい』って聞こえてきたわけよ すわ キャツが現れたか! って窓のカーテン隙間から 音の聞こえるほうを盗視したらよ ゆっくり 坂道 歩いて下ってきた アレをみたのよ」

歩いて? 自転車じゃないんですか

「歩いて。 自転車じゃなかった」

んじゃあ その ぎぃぃぃ ってブレーキ音が聞こえるのは おかしいじゃないですか

「そう。自転車に乗ってないのに ブレーキ音が聞こえてきたの。 ギシギシギィギィ 軋むような音立ててね」

んじゃあ 何が音を立ててたんですか

「時間も時間だから 暗くて何が音を立ててるのか判らなかったけれども ほら あそこに街灯があるじゃない。 あそこだけスポットライトみたいに明るくて 坂道を歩いて下ってきたのが何なのか はっきり見えたの」

んで 何が見えたんです?

「おばあさん」

おばあさん? 深夜二時に?

「居たんだからしょうがないじゃない。 で そのおばあさんが ぎぃぃぃぃぃぃいいぃぃぃいぃ って音の発生源だって はっきり 判った」

でも そのおばあさん 自転車に乗ってなかったんでしょう? んじゃあ どうやってその錆びたブレーキみたいな音を出してたんですか

「それよ。 あのおばあさんね 自分で自分の首を絞めてた。 縄を 自分の首に廻して ロープの両端 左右で握って ぎゅーぎゅー引っ張り絞ってて 紫色の 生きてない人の顔をして。 そのおばあさんの喉から 引き攣れて 嗄れて 甲高い 金切り声で 『ぎぎぎぎしぎしぎぃぃいいぃぃぃいぃいぃいいぃいぃいぃぃぃいいぃいぃぃぃぃいぃいいいぎぎぎぎぎぃいぃぃいぃい』って 叫びながら 歩いてた」







話し終わったミドリさん それっきり黙ってしまい 僕が何を話しかけても何の反応も無し。 眼もぼんやり開いたままで 目の前で手を振っても瞬きすらせず。 まるで電池が切れてしまったかのようで。

ああ ミドリさんも久しぶりの長話で 疲れちゃったんだろう と ミドリさんをベッドに横たえて 首元まで布団を掛けたげて。

眼も開きっぱなしだったら 目の表面が乾いてしまうよ と そっと瞼を撫でて閉じさてたげて。

このあとお休みの口づけでもすりゃあ良かったのでしょうけれども あとできっと殴られてしまうからそれだから 頭を撫でてあげるだけにして。

また 近いうちに来ますよ と 病室を後にいたします。

病院から出て 坂道 自転車で颯爽と下り 下り終えての信号待ち 今来た坂道 振り返り見て。

ああ やっぱり 坂の上から皿とかの食器は転がり落ちては来ないし 自分で自分の首を絞めて断末魔をあげ続ける老婆も歩いてこない。

アレは ミドリさんの作り話だったのかなあ だとしたら ミドリさん だいぶ腕を上げたようです。

『まあ 昔話とか怪談ならともかく 今の世に そんなお化けがでるわけもないよねえ』 なんて 独り語ちるとですよ。

自転車の前カゴに入りっぱなしだった スイカ二つ入りの袋 ゴソリと震え。


『い ま も こ ろ し あ っ て い る ぞー』

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Comment

名状しがたきもの : 2007-06-23(Sat) 20:37 URL edit
ミドリさん・・・
名状しがたきもの : 2007-06-24(Sun) 18:45 URL edit
ひえええ
スイカのことすっかり忘れてたのに、最後に出てきてゾッとしました。
名状しがたきもの : 2007-06-24(Sun) 20:44 URL edit
スイカの方で落ちですか。やられました。
名状しがたきもの : 2007-06-25(Mon) 00:38 URL edit
スイカはよかった
病院坂ー!
名状しがたきもの : 2007-06-25(Mon) 03:30 URL edit
今月も安心した
名状しがたきもの : 2007-06-25(Mon) 12:10 URL edit
この後スイカ(っぽいもの)はおいしくいただきました
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