お蔵出し 盲目娘。

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2007-01-11

星澄める真冬の空の下 彼女はあまりに薄着でありました。

白銀の雪を素足で踏みしめてると云うのに少しも凍える様子はありません。

ただ ボンヤリと 立ち尽くしているのです。

雪が照り返す鉛色の光線を受けた彼女は 蛾の銀粉を全身にまぶしたかの様に輝いていますが 只々儚げで。

目を離すと不意にいなくなってしまいそうな程 稀薄に感じられる娘は不意に。

「もう 死んだっていいよう」

と 一言。 口からこぼれ出た途端に掻き消えてしまいそうな掠れた一言だけを洩らして 小さく小さく蹲りました。

すがるべきモノが見つからないみたく頭を垂れて。

夜の中をジッと動かず 彼女の様子をうかがっていた僕は 居ても立ってもいられなくて。

羽織っていた黒い外套で 少女を覆ってあげた。

影みたいに薄っぺらくて頼りない外套ですが 彼女を護ってあげたかったのですよ。


◆     ◆


十四才の娘がおりまして 名前を小夜子といいました。

十四才の娘は目が見えなくて けれども 月をみたいと 僕に云い。

夜 病室に忍び込み 彼女の手を引き連れ出した 冬の枯野のど真ん中

月は夜の真上にあるよ と 彼女 抱き寄せ 顔 上向かせ 黙って二人 月 見上げ

月のヌメランと照る野原 風の吹かぬが薄着じゃ寒い ガタガタ震える歯を噛み締めて

《月の光ってのはきっと ガラスみたいに冷たくて シロップみたいに甘いんでしょうねえ》

なんてこと 娘は云って。

さあ 口をあけてごらん 月の光が 君の舌の上に落ちてくるよ。

僕 彼女に接吻し 口移しでハッカ飴を食べさせてあげましたよ。


◆     ◆

「幸せをくださる神様は ずっと遠くにいるのです」

僕からそんなことを聞かされたその娘は 背伸びしても ピョンピョコ跳ねてみても 乱立する煙突 渦巻き吐き出される黒煙 そんなのに遮られてしまって 地平線を見ること できない娘は。

ならば神様のくださる幸せと云うものは 自分の真上 空から降ってくるものなのでしょう と 一生懸命眼を凝らして 空を見上げているのでありますが

ああ 娘さん 幸せと云うものが 目に見えるものであったのなら 最初から 娘さんが現在 しているような苦労 しないんですよ と 声掛けることなんて とても出来ませんでした僕のような男に この娘の眼を閉じさせてしまうこと 云うことは。

ああ だけれどけれども 幸せ 見ることできないのは 僕のほうであって彼女にはハッキリ見えているのではないでしょうか だから彼女はあんなにニコニコしながら 真摯な気持ちで空を見上げているのです ぐぐっと背伸びをして 手を伸ばしたらもうすこしで届くかもしれない そんな真面目な顔をしていて ああ 僕とは大違いです 僕にはそんなこと 無理です出来やしません ソレを自覚してしまうの 怖い僕は 彼女に声を掛けるの 怖ろしくてたまらないのです。

そんなこと 考えていたらです 娘さんの 見通す奇麗な両目が憎くなってしまいまして 娘さん 組み伏し倒し 押さえつけ スプーンで両目を刳り抜いて 空に翳して覗いてみます。

望遠レンズみたいに 空に翳して覗いてみても スモッグなんかで薄汚れていますから 娘さんの見えたであろうもの 僕には見えません。

ああ けれどもそれでも こんな シットリしてて ぴかぴか光る とても奇麗な眼球ですから お土産にしようと思い ポケットに二つ ほうり込んで 病院に向かって歩き出すのです。

僕には見えないけれども 彼女になら 見えるのかもしれません。


◆     ◆


「さぁ 右手を貸してください」

彼は私の右手をソッと取り 何かを優しく握らせました。

これは なんですか?

しばらく手の平の上の質感を確かめるようにソレをコロコロと転がして 私は小首を怪訝に傾げ 思案げに手の平の上のモノが何なのか 知ろうとしたけどわからなくて。

「とてもイイモノですよ コレは僕の神様みたいなモノです そしてアナタにピッタリなモノでもあるのすよ だから。 アナタにあげます」

私に ピッタリ ですか と ソレを空にかざすようにして摘み上げ。

ごめんなさい 私にはコレが しっとり濡れてて真ん丸いくらいのコトしかわかりません

「僕は今日 ここに来る途中 女の子に逢ったんです」

私の 急に彼は何を云い出すんだろう なんて顔をしたのを彼が察したのか 彼は私の頬をソッと撫でて。

「いいから話を聴いてください」

と 私の耳元に囁きます。

「僕は今日 女の子に逢ったんです」

「彼女は乱立する煙突と渦巻き吐き出される黒煙に遮られて地平線が見えないから」

「いくら背伸びをしても地平線が見えないと泣き出しそうな女の子は」

「幸せは空から降ってくるモノなのであろうと一生懸命目を凝らして空の真上を視ていました」

『幸せというのが目に視えるモノだったら 最初から苦労はしないんですよ』

「その娘さんにそう云ってあげる事は 僕にはとても出来ませんでした この娘さんの綺麗に開いた目を 閉じさせてしまうような事を云うのは」

「だけれどもですよ 実は幸せが見えないのは僕の方であって この娘さんにはハッキリと視えているのでしょう ソレを知る事が怖い僕は 娘さんに声をかけるのが怖ろしくてたまらないんです たまらなかったんですよ」

「そう思ったらこの娘の見通す眼球が憎くなって羨ましくなって。 くり抜いてポケットに入れて持って来たのです」

「僕の事を待っている娘にあげようと思ったんです。月の光も知らない盲目娘にあげようと思ったんです」

「コレを持っていて下さい。 何でも視える 視えるモノと視えないモノの神経の間を繋ぐステキなモノです」
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Comment

文太 : 2007-01-11(Thu) 20:59 URL edit
良いものは良いと。お久しぶりです。
名状しがたきもの : 2007-01-13(Sat) 00:03 URL edit
ロマンチックだと思ったのになぁ。
名状しがたきもの : 2007-01-13(Sat) 11:34 URL edit
「盲目娘。」ずっと探していました。
名状しがたきもの : 2007-01-13(Sat) 22:40 URL edit
中也、好きなのです。
佐々木(仮)さんの文章も好きなのです。
相乗効果ですね。
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