あいし手ゐるよ。(here and there #21)

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2006-09-25

「『結婚は人生の墓場』だなんて云うけれど ありゃ結局のトコロ 結婚できない奴の僻みだよ。 なにせ 結婚できなきゃ墓場にすら入れない。 最期は野垂れ死にするしかない 一山幾らのクズどもの僻みだよ。 まあ 俺もその一山幾らの中の一人なんだけれどもなあ」

と ひとけのない荒れ果てた墓地 箱に腰掛け 初老の彼は云いました。

「俺だって いつかは結婚できると思っていた 結婚しようと思った相手もいた。 けれども 結婚できなかった 振られちまったんだよ。 思えば彼女のことが大好きで結婚したいと思っていたのは俺だけで 彼女のほうは俺のことなんか別段どうとも思ってなくて 俺と付き合っていたのは まあ タダの暇潰しだったんだろう。 で 俺が つまらなくて くだらなくて 面白くない人間であるって彼女は思い至ったんだろうなあ。 暇潰しが暇潰しじゃなく 俺と一緒にいるのが退屈になっちまった。 だから 俺は 振られちまった」


ガッ ゴッ ゴッ


「きっと 俺が彼女とした恋愛だって思い込んでたモノは 精々が恋愛の真似事 偽モノ 紛いモノ。 独りぼっちの恋愛ゴッコだ。 そんで俺ぁ悟ったよ 恋愛とか 結婚ってのは 全部妄想だ。 夢の中にしかない。 何処かにあるとしても 遥かに遠い。 きっと 結婚とか恋愛とかできたのなら どんな夢も叶う 誰もが行きたがる遥かな世界 どこかにあるユートピア どうしたら行けるのだろう教えてほしい! ガンダーラ みたいな!」


ゴッ ゴゴンッ ガッ ガッ ガッ ゴッ ゴッ ゴン ゴガッ


「ふん。 結局 俺みたいなのには辿り着けるわけもない。 もう諦めているよ 彼女に振られたときから俺は 諦めている。 彼女に振られてから三十五年 人とは交わらないように生きてきた 俺みたいな奴は 誰からも好かれるわけないし愛されるわけもない だから ずっと独りで生きることにした」


ドッ ゴッ ゴンッ ドガッ ガッ ゴッ ゴン ゴガッ ドンッ


「そりゃあ 彼女に振られたときは とても辛かったさ。 もはや俺の心の半分は 彼女との思い出で出来ていた。 残りの半分は彼女への想いで出来ていた。 彼女と離れるってことは辛かったが 不在する彼女のことを思い続けて想い続けるほうが ずっと つらい」


ゴガッ ドッ ゴスッ ゴンッ ドガッ ガッ ゴッ


「だから俺は 彼女を忘れることにした。 彼女とのことは なかったことと思う事にした。 心の中の彼女のこと 全部 黒く塗り潰すことにした。 彼女についての知識 星座も趣味も口癖も 一緒に歩いたあの道の記憶も 一緒に食べた料理の味も 一緒に繋いだ手の感触も 一切合財。 塗り潰した。 俺の感情は もう 彼女の事では動かない と思っていた」


ガッ ガッ ゴガッゴッ ドッ


「動かない と 思っていたんだけれどもなあ。 ある日のことだよ。 彼女が 男と一緒に歩いてるのを見た。 俺の知らない男だよ 彼女は その誰かと 手を繋いで歩いていた ニコニコ笑いながら 楽しそうに歩いていた 俺の前じゃ あんな顔 久しく見せてはくれなかった ああ ああ でも 大丈夫 彼女の事は なんでもない 俺は彼女のことなんか なんとも思ってない 俺の心は 彼女のことで 揺るがない 大丈夫 大丈夫

彼女の事は 全部忘れた

彼女についての知識 星座も趣味も口癖も 頭に残っちゃいない

一緒に歩いた道の記憶も 足に残っちゃいない

一緒に食べた料理の記憶も 舌に残っちゃいない

一切合財 黒く塗り潰して 忘れてしまえたはず だった

ただ 彼女と繋いだ 右手の感触だけが」


ドガッ ガッ ゴッ ゴン ゴガッ ドンッ


「俺の右手だけが 彼女の事を 忘れられなかったんだよ。 俺の意識に関係なく 俺の右手は彼女を求め続けた。 彼女と結ばれて 未来永劫 彼女と一緒に生きて暮していたかった。 右手のとっちゃあ そうなることは天国なんだろうけれど それは俺にとっちゃあ地獄以外の何物でもない。 俺は 右手の奴に一生懸命諭したのだけれど 聞きやしねえ。 彼女のトコロに行きたい 一緒にいたい だなんて駄々をこねやがる だから」


ゴゴンッ ガッ ガッ ガッ


「切り落としてやったのよ 電動丸ノコで 一思いにズッパリと。 そりゃあ痛かったさ あんまり痛くて 気絶しちまったよ。 まあ これで一件落着 俺は彼女の事なんかに惑わされずに生きれる 誰からも愛されない俺は 俺だけを愛して強く生きれる筈だったよ 本当なら。 俺が気絶から醒めると 切り落とした俺の右手が 無くなっていた。 部屋の中を探したけれど 見つからなかった。 ただ血の跡が一筋 窓の外へ向かって伸びていたよ。 きっと 俺の右手は 彼女を諦めきれず 外にさ迷い出たんだろうさ。 とりあえず止血の後 血の跡を辿ってみたよ そしたら 彼女の部屋まで続いていてねえ。 彼女 どうなっていたと思う? 正解は この箱の中」


彼 今まで 腰掛けていた木箱の蓋を外して見せてくれた中身は


「彼女は発見された。 俺の右手に首を絞められて 断末魔を叫ぶ姿でね。 痙攣する彼女の首から右手を外そうとしても外れず 一層食いこむばかり。 だが 彼女は死ななかった。 死ねなかった。 俺の右手の思いの強さ 彼女と未来永劫添い遂げたいなんて強すぎる念に縛られた所為か 彼女は死にたくても息絶えることが出来なかったのだ。 そんな死ぬ間際の断末魔を叫び続けて三十五年 現在に至る」


箱の中身 飛び出た目玉 土色の顔 ひゅうひゅう漏れる断末魔 首にしっかりと食い込んだ萎びた右手 ソレをもぎ離そうとガクガク痙攣 死に続けている若い女性 ゴロゴロともんどりうって 箱の内側 ゴツゴツと体当り。 先刻からの音はコレか。 


「三十五年も前から コレから先 俺の右手が朽ちるまでずっと 死に続ける彼女を見ても 俺の心は動かない。 けれども 俺は こうして彼女と俺の右手の墓守をして野垂れ死のうと思うよ ソレが俺みたいな一山幾らのクズには お似合いじゃあ ないか ねえ?」
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