喰罪。(here and there #20)

Home > ----- / スポンサー広告 > This Entry 2006-09 / 双子の兄のこと。 > This Entry [com : 1][Tb : 0]

--------

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2006-09-25

僕には兄がいて 今は離れて暮している双子の兄がいて ここ暫く連絡なんか取っていないゆえ何処で如何してるか知れないけれど。

今日のことです 仕事から戻った僕のアパート 鍵をかけたはずのドアが開いていて すわ 泥棒にでも入られたか と急いで中に入りますれば 玄関 上がり框に腰掛けて 黒い鞄を抱えてコクリコクリと舟を漕いでいるのは泥棒にあらず 僕の双子の兄でありました。

「ん おお 遅かったじゃないか」

遅かった じゃないですよ兄さん 鍵かかってたのに どうやって入ったんです

「や ちょっとばかり犯罪まがいの行為をしてだな。 そんな事より聞いてくれ 大変な事になった」

大変な事 ってなんです どうせ兄さんのことだろうから どうでもいいようなことなんだろうけど。 まあ とにかく中に入って 適当なところに座ってくださいよ いま何か飲み物をもってくるから

「ああ すまん じゃあここで」

兄さん 部屋の隅に置いてある長い箱に腰掛けて 僕の持ってきたお茶を啜ると ゆっくり話し出しました。

「つい このあいだの話だ。 オレが一輪車で日本列島縦断の旅をしてる途中のことなんだけれど」

なんでまた そんな夏休みの小学生みたいなことを?

「まあ モノのはずみってヤツだ。 そんな事はどうでもいいんだ 途中 財布一式をどっかに落としちゃって ソレに気が付いたのは山道の途中 調子に乗って走ってたものだからここが何処かが分からなくてその上一輪車のタイヤもパンク 自動車も滅多に通らない辺鄙な山道だったからヒッチハイクもままならくて おりしも夕刻近く 降り出してきた雨にも濡れ ニッチもサッチもいかなくなって途方に暮れていたんだけれども」

へえ そりゃ 大変でしたねえ

「うん。 それでパンクした一輪車は乗り捨てて 道なりに民家を求めて歩き出し 小一時間も歩くとようやく ちょっとした集落をみつける事が出来た」

ほう それはよかったですね

「それでなあ 電話を借りようとその集落の家を一軒一軒訪ねて歩いたんだけれど 皆 オレが玄関先でスイマセン! て大声を張り上げても ちょっと覗き窓から一瞥しただけで 以降 無視を決め込みやがった!」

そりゃあ 兄さんみたいな 見ず知らずの妖しい風体の男がいきなり訪ねてきたら 怪しんで無視するでしょうよ ポリスに通報されなかっただけでもマシと思わなきゃ

「馬鹿! あの時のオレの哀れっぷりといえば 雨に濡れて震える捨て子猫にも勝るほどのイキオイだったのだぞ! 誰しも傘を差し出して『お前も俺と同じ ヒトリボッチなんだな』と胸に抱いて家に連れ帰るほどの!」

兄さん相手にそんなコトする人 誰もいませんよ

「まあ とにかくだ 金もなけりゃあ移動手段も自分の足ばかり その足も疲れて限界 電話を貸してくれて 少しでも休ませてくれるトコロを求めて その集落を歩きまわって 人がいそうな家を訪ねては無視を決め込まれて 疲労も頂点 すでに夜の帳も下りて 身体も濡れてガクガク震えが止まらずに もう死ぬのかなあって観念しかけたところ!」

そのまま死ねばよかったのに

「何か云ったか? まあいい。 その集落のだいぶ外れの辺り まだ行っていない一軒家 人家の灯り チラチラと燃えているのが見え こりゃアソコの家に頼み込むよりしようがない って 最後の力を振り絞って辿りついたわけよ その家に」

で どうでした

「辿りついたその家は その集落で一番大きな豪邸だった で その豪邸に お婆さんが一人 いたんだけれどな もう ウェルカムウェルカムの大歓迎よ。 玄関でスイマセンって声掛けるや否や お婆さんが出てきて オレの濡れた身体を拭くタオルや熱々のお茶とかお風呂の準備までしてくれて 至れり尽せりの大奉仕! 更には風呂上がりのオレが事情を話すとだな 『近くの駅まで自動車を出してあげてもいいし それに 自宅に帰るまでの旅費を用立ててあげてもいい』というのだ そのお婆さんは」

ずいぶん うまい話じゃないですか

「うまい話には裏があった。 『ある ひとつの事をしてくれるなら』ってのがその後に続いたのだ」

ある ひとつの事?

「『この子を助けてほしい』ってな その老婆が 襖を開けると 小さな布団が一つ敷いてあって 子供が一人 寝かされていた」

『助ける』って 病気か何かを治してほしいってことですか ド素人の兄さんに?

「オレがド素人だろうが ドクター何髭だったろうが ブラック何クだったろうが その子供を助ける事は出来なかっただろうよ なにせ その子供の顔の上 白い布が被せられていた」

それって 人が 死んでるときのアレじゃあ

「見事に死んでいた。 その日は その子のお通夜だったそうだ。 今更オレが何をしようが死んだ子供を助ける事はできないさね。 それでオレも 死んだ子供を助けるってのは どういう意味かって聞いてみんだ」

どういう意味だったんで?

「『この子の《罪》を喰うてください でないと この子はお山に連れていかれて 永遠に成仏できんのです』だとさ」

罪を 喰う?

「ずっと昔 その家の何代も前の当主がな その土地じゃあ禁足域になってる山で 禁忌を破るような罪 山のお使いである何かをどうにかしてしまったらしい。 その結果 山のお使いを自由に使役して望むものを何でも持ってこさせる事ができて 其処ら一帯では一番の富持ちになった。 だが しでかした何かの所為で 禁忌を破った罪の所為で 山の神様の怒りをかって 死後 お山に連れていかれることになった」

へえ 

「本当なら その当主が死んで お山に連れていかれて 手に入れた富も消え 一家離散で血筋も絶えて そんな昔話があったとさ でお終いだったのだけれど その当主は お終いにしなかった」

それがその 罪を喰うとかいう?

「うん その当主は 四方八方手を尽くした なにしろ金なら捨てるほどある。 結果 凄腕の除祓師を頼ることにしたんだとさ。 で その除祓師にすることができたのは 《罪代を先送りする事》 ようするに 次の世代の当主に罪を肩代わりさせて事無きを得る方法 ソレが罪を喰うってこと らしい。 で 代々 罪代を先送りしてきたわけだが 今の代になり 男の子は 風邪をこじらせて簡単に死んでしまって とうとう罪代を先送りできなくなった。 何故なら 男の子は一人っ子 両親も早くに亡くし あの大きい屋敷でお祖母さんと二人暮らし 罪代を肩代わりできるような男が家系もういない。 死んだ子で血筋断絶してお家廃絶だ」

だから 別の誰か つまり兄さんに 罪を肩代わりしてもらおうってことですか

「その集落の中じゃあ 誰も罪代を肩代わりしようって人はいなかった 関わり合いになりたくなかったから。 その日が通夜だってのに 誰も来やしなかった。 村八分でも火事と葬式は除くってのになあ。 まあ お通夜の日に 山の神さんがやって来て 死んだ子を連れていくってんだから 物忌みもしようってものだよ」

物忌み?

「うん その子が死ぬ三日前くらいに ドスンってでかい音がしたと思ったら 石の棺が家の前に置かれていたそうだ つまり 山の神さんには もうすぐその子が死ぬってこと わかってたんだろうな 死んだら その棺の中に入れろってことだろうよ。 だから その石棺が置かれた日から男の子が死んでお山に連れて行かれるまで 集落の誰もが家に篭って出てこなかった 山の神さんを見たら 目が潰れるとか 不吉な事が起きるとか そんなことで」

で 結局兄さんは 罪を喰ったんですか?

「喰ったさ 閉鎖的な集落ほど そんな迷信めいた因習が残っているものさね。 文明人たるオレは そんな迷信 その時は 毛の先ほども信じちゃいなかったから その罪を 喰った。そうするだけで帰るまでの旅費を出してもらえるのだし 罪を喰うって行為自体 容易い簡単なことだったし」

具体的には 何をしたんです?

「んっと ただ 塩で味付けた団子何個かを 祭文唱えながら食べさせられた。 それと 爪と髪の毛を少し取られて 人形に詰められて名前を書かされた。 石棺に その子の遺体の替わり 俺の名前を書いた人形を入れておくんだとさ そうすることで 俺が罪を肩代わりしたことを 山の神さんに知らせるってことらしい」

ふん まあ それだけのことをするだけで帰ってくることが出来たんだから よしとするべきですよ どうせ 迷信だったんでしょう?

「迷信じゃ なかった」

なかった?

「俺の名前を書いた人形を その石の棺の中に入れたんだけれどな ちょっと目を離した隙に その棺が無くなってた」

無くなってた って 誰か場所を移動させただけじゃないんですか?

「誰が移動させるんだ 石の棺だぞ 大の大人十人掛かりでもなきゃピクリとも動かないくらいに重かった棺が 俺とお婆さんと死んだ子しかいない家から消えてしまったんだぞ? 山の神さんが 持って帰ったに違いない」

まあ 兄さんがそう云うのでしたら そういうことにしておきますが 兄さんに云うことの半分が嘘 半分が妄言だからなあ

「何を抜かすか この間抜け面が! お前が俺を信じないというのなら もっと決定的な事を云ってやろう」

なんです 決定的な事って

「まあ聞け。 その家の当主は 代々 山のお使いを使役することが出来た 望むものを山のお使いに命ずると 何でも持ってきた だから 一番の富持ちになれた」

ソレが 兄さんに何の関係があるんです?

「山のお使いを使役できる権利は 罪を喰う事で継承される つまり 罪を喰った俺が 山のお使いを使役できるってこと なんだ」

そんな また兄さんお得意の妄想話ですか

「妄想じゃないぞ きっちりリアルな話さね 証拠だってある」

と 兄さんが小脇に抱えた黒い鞄 チャックを開くと ミッシリ 札束 うわあ どうしたんですか こんな大金!

「だから 山のお使いに命じたんだよ 『大金を持って来い』ってな そしたら ちょっと目を離した隙に こんな大金が。 数えてみたら ざっと三千万円はあったよ どうだ 凄いだろう 羨ましいだろう」

いや 別に羨ましくはないよ兄さん 凄いとか思う前に このお金の出所を考えるべきだったね

「な なんだ 随分と意味深な事を云うじゃないか このお金は 山のお使いが持ってきてくれた 俺の金だぜ なんの不審な事もないぞ」

ニュースを見ていないのかい兄さん 近くの信金の現金輸送車から お金が無くなったって云ってたよ その額ざっと三千万円。 ちょうど 兄さんの鞄の中に入ってる金額と一緒じゃないか

「いや まあ ただの偶然 だよ はは は」

偶然じゃあないと思うけれども。 そのお金に手を付けないほうがいいと思うよ 番号も控えられてるだろうし

「まあ ほとぼりが冷めるまでは手を付けないことにしよう。 で どうだ」

どうだって 何がです?

「お前にも この素晴らしい力を体験させてあげよう。 俺はこの現金があれば しばらく生活に困る事は無いし これ以上の富は欲しいとも思わない。 だから 可愛い弟のお前に 山のお使いを使役できる権を譲ってあげよう。 つまり 俺の罪を喰ってくれないか」

ああ そういうことですか

「祭文とかの唱え方なら憶えてるし 材料ならお前が留守の間 団子とか人形とか既に用立てておいた だから この人形にお前の名前と爪髪を入れてだなあ」

そうだ 兄さん 一昨日あたり 届いたものがあったんだけれど

「届いたもの? 何の話だ」

うん 僕 何でこんなものが届いたのか まるで理解できなかったけれど 今の兄さんの話を聞いて ようやくわかった

「だから 何の話だ」

いま 兄さんの腰掛けてる石の箱のことだよ

「え?」

朝 目がさめたら この石の箱がその場所に置いてあった。 何だろうと思ったけれど 動かすには重すぎるし なんだかよくわからなかったから放置する事にしたんだ 見栄えが悪かったから 適当な布で覆って腰掛け代わりにしてたけど。 やっと 何に使う為の箱かわかった。 こりゃ 兄さんの棺桶 だったんだなあ

「いや まさか もう こんなに早く うわ じゃあ 早く 俺の罪を 喰ってくれ 早く!」

いやだよ 兄さんは このまま 罪を抱えて山に行くべきだ だから手伝ってあげるよ

「ちょ ちょっと 待て 待ってれボッ!」

兄さんの話を聞きながら手元に寄せておいた重量級のクリスタルグラスの灰皿 振りかぶって兄さんの頭にめり込ませた グンニャリ床に崩れる兄の亡き骸 垂れて流れて広がる脳漿ショロリ ああ こんなに汚れちゃ 後掃除が大変だ。

さて 兄さんから聞いた話によれば この棺の中に 罪代を抱えた人を入れると 山の神さんが引き取りに来る ってことだったけれど と 兄の身体折り曲げるように箱の中に詰め 蓋を閉めて出来あがり。

さて 後片付け どうしようかなあ とりあえず雑巾を持ってこないと と 用具入れからバケツと雑巾を持ってくるわずか十秒足らずの部屋から外れた時間の内 石の棺は痕跡残さずなくなっていて あるのは兄さんの流した脳漿と 鞄に詰められた現金三千万円だけでございました。
スポンサーサイト

Comment

: 2006-09-25(Mon) 06:16 edit
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Post a Comment









管理者にだけ表示を許可

Trackback

http://puddleglum.blog27.fc2.com/tb.php/100-443f4d82

沼人村 Home | Page Top▲

Next door
New>> あいし手ゐるよ。(here and there #21)
old>> いたみわけ。(here and there#19)
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
このブログをリンクに追加する
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。