彼が云いました。
「先程 神様みてぇなヤツが顕われました。 其れは ルールを組み替え 仕組みを弄り 現実を変容させます。 戯れに 人々の願い祈り思いの類を 感じ聞き取り叶えます。
で これもつい先程なのですが 何処かの誰かが呟いた 『この国では同性同士が結婚する事は許されないのか?』の問い掛けを 神様みてぇなのが耳ざとく聞きつけて こう云いました。
『許すも何も 結婚したいなら すれば良い』
その事から つい15分ほど前 この国では同性婚が法に則り許可されました。
更に 其れが云う事には。
『結婚したいその二人が 男と女だろうが男と男だろうが女と女だろうが 愛し合っているなら結婚すればいい 愛し合っている事を証明できるなら 結婚すればいい。 そうしよう それを証明できないなら 結婚できない そのようにしてしまおう』
神様みてぇなヤツが決めた次の瞬間には 全ての役所の婚姻届を受け付ける窓口に 壺が設置されました。 壺の中は 熱く煮えた泥が満ちてうねり沸騰し続けています。
婚姻届を提出されるお二人は 諸々の書類の提出と一緒に この壺の中に手を突っ込んで戴きます。
お二人が真に愛し合っているのなら 熱く煮えた泥の海に手を入れても 無傷でしょう。 しかし それが偽りであるのなら 瞬時に煮崩れます。 ご理解いただけましたか? では どうぞ」
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2023-02-18(Sat) | 未分類 | comment : 0 | Trackback : 0 | △
彼は云いました。
「行方不明者というのがいる。己の意志によるものか 事件事故災禍に巻き込まれたものか 認知が曖昧になって自分が何処の何誰かわからなくなってか 音沙汰なくなり見つからなくなってしまった者たちだけれど 僕もきっと いずれ 行方不明者達の仲間になってしまうのだと思う。
その時は 僕のことを探したりしようとしてくれなくていい その時は 僕が怪異になってしまったのだと思えばいい」
怪異?
「僕は 夕暮れ時を跋扈する 都市伝説の怪異に成り果ててしまったのだと 思えばいい。 そんなものに 僕は昔からなりたかった。
遅くまで遊んではいけない 危険なところに行ってはいけない 静かな所で騒いではいけない 食べ物を粗末にしてはいけない。
それらを破ると アレが来るぞ のアレだ。
警告 教訓 ルール破りに唐突に与えられる罰則的な怪物だよ。
目を潰されたり舌を抜かれたり指を折られたり何処かへ連れ去られたりの罰を与えるとされるヤツ。
ハーメルンの笛吹男 赤マント 首なしライダー ベッドの下の斧男 風船おじさん タキシード仮面 チクワと鉄アレイを交互に投げつけてくる男 そんなものに そんなモノになりたかった。 近いうちに なる 成り果てる。 教訓めいた寓話めいたヘンテコなモノに。
僕がいなくなって 何か聞いたこともない都市伝説が聴こえてきたら それは僕だと思えばいい。
窓から部屋の中に忍び込んできた中年男性。部屋の中にいた女児に『今はこれが精一杯』と股間のチャックから取り出した花一輪を手渡し 再び窓から飛び出し何処かへ立ち去り」
ただの不審者じゃねえか。
「不審者の情報です。女児に対する声がけが発生しました。
早朝の公園で男の声で「こんばんは」と声をかけられ周囲を見回しても誰も居らず 再び背後から「こんばんは」と話しかけられ びっくりして振り返ると 急に周囲が真っ暗になり 驚いて逃げ出したとのこと。女児に怪我はありませんでした」
2023-02-04(Sat) | 未分類 | comment : 0 | Trackback : 0 | △
彼女が云いました。
「今日の月は綺麗で大きくて 写真に撮って残せておけたら とても良い と思って手持ちの携帯電話で写してみても 何故だかガッカリするくらい小さな月が写っていて 不思議に思うこと あると思います。
でもそれは不思議でもなんでもなく 本当の月は 小さいのです。
写真に写る月の大きさが真実の大きさであるというのなら 実際自分の目に映る月の大きさはなんなのだろう?と思われるでしょう。
実のところ 月というのは 目にする人それぞれによって 大きさが違います。 視え方に個人差があるのです。
人によってはビー玉くらい 人によってはピンポン玉くらい 人によってはソフトボールくらい。 その日の天気 月との距離 観る人の体調によって 多少大きくなったり小さくなったりはありますが 個人各々で 月の大きさは違って見えるのです。
いや そんな事はない 月の大きさが観る人によって変わるだなんて ないだろう? と思われるでしょうが考えてごらんなさい。自分には月の大きさがこのぐらいに見えるけど 君はどのくらいの大きさに見える? なんて 話を誰かにしたこと ありますか?
ないでしょう。 皆 自分と同じ月を見ているのなら 同じ大きさであるだろう と思い込んでいる。
今度 誰かに聞いてみるといいですよ 自分が思っている以上に 大きさの認識に差異がある。
それでは 何故 本当は小さな月が 人によって大きさが違って見えるのでしょう?
それはきっと 見るその人の 何かの器の大きさを示す指針なのです。 自分が内包する何かの量の過多過小なのです。 何かの質の純度の高低なのです。
それらによって 月は 観る人によって 大きさを換えるのです。
じゃあ その何かってなんだよ とお思いでしょう? わからないのです 何が原因なのか その何かの過剰過小で何が起こるのか その何かで何ができるのか 本当に分からない 分からないから困っているのです。
困っているのです あの月をどうしたらいいのか。 夜 見上げる度に目に余る 転げ落ちてきそうな程に危なげな 目を瞑っていても眩しい程にギラギラ光る 空を覆い尽くさんほどに巨大な あの月を!」
その後 彼女は 自らの両眼を抉り毟り潰した。
2023-02-02(Thu) | 未分類 | comment : 0 | Trackback : 0 | △
ガッ ゴッ ゴッ
「…でね そのダルマ市で有名な 星の神様を祀ってる神社なんだけれど その祀られてる星の神様ってのがカガセヲ別名アマツミカボシって名前の神様でね タケミカヅチが国譲りを迫ったときに一番最後まで抵抗した神様なんだ」
ガッ ゴッ ゴッ ゴン
「カガセヲは手強くて 武神のタケミカヅチやフツヌシの手に余り 最後の最後 織物の神様であるところのタケハツチによって退治されたという。 その死に様は 縄で縛られ四肢をもがれ片目を刳り貫かれるという凄惨なものであったと俺は予想する。 というのは さっき言った『ダルマ』だ。 すなわち 手足が無くて 片目が無い」
ガッ ガッ ガッ ゴッ ゴッ ゴン
「で 面白いのはね このカガセヲってのが夜にちらちらと輝く星の「蛍火の光く星」の一神と考えられる事から 明け方に太陽を脅かして消える金星のことではないか という説がある つまり『曙の明星』だね。」
ゴッ ゴゴンッ ガッ ガッ ガッ ゴッ ゴッ ゴン ゴガッ
「実はね 遠く離れた西洋に 同じ この『曙の明星』の名を持つ ルシファーって堕天使がいるんだけれども これと関連付けて考えるとだね…」
久冨さん 久冨さん
「なんだね佐々木(仮名)君 まだ話の途中なんだけれど」
や 面白くてためになるお土産話の途中というのは重々承知の上なのですが 久冨さん さっきから 久冨さんの腰掛けているソレ その木箱のあたりから なんか 音が聞こえるのですが
「音?」
ドッ ゴッ ゴンッ ドガッ ガッ ゴッ ゴッ ゴン ゴガッ
ほら その箱の中から 音が聞こえてくる
「ああ この音か 気にしなくていい これも今度の旅で手に入れたものだよ 裏ルートで闇オークションに流れていたのを偶然手に入れる事が出来た」
なんすか そのウラとかヤミとかって。 で その箱の中身はなんなんです?
「ヴィーナスの両腕 だよ」
ヴィ ヴィーナスって あの ミロのヴィーナスとかのヴィーナスですかい?
「うん その ミロのヴィーナス ってのは違うけれども かなり惜しい」
惜しい?
「ミロのヴィーナスってのはねえ ギリシャのどっかの島の土の中から発見されたんだけど 発見された時 六つのパーツにばらされていたそうだ で その六つを組みたてたのが 今の両腕がない姿。 両腕は探しても見つからなかったそうだよ」
じゃ じゃあ その箱の中に入ってるのって ミロのヴィーナスの 発見されなかった両腕なんですか?! 大発見じゃないですか!
「違うって云っただろう コレは ミロのヴィーナスの両腕じゃあない。 もっと 別のモノだよ」
別のって。 じゃあ 何のヴィーナスだってんです
「まあ聞きたまえ 俺がコレを手に入れたとき説明された話。 ミロのヴィーナスの両腕がない理由だよ。 なんらかの理由で両腕がもぎ取られたとか 両腕が後で発見されたけれども誰かに盗まれた とか そんなんじゃない。 ミロのヴィーナスには 最初から腕が なかった。 最初から 両腕を欠いた姿で 彫られた」
ソレは 随分と突拍子もない話ですな
「ミロのヴィーナスは 別のヴィーナス像を模倣して彫られたモノなんだそうだ。 で その別のヴィーナス像を模倣するとき ソレの両腕が欠けていたため正確に模倣することができず 仕方なく両腕を欠いた姿のまま完成させたそうだよ」
なんか 眉唾ですが
「で 俺が手に入れたのが その模倣された方の大本の 欠けた両腕 って訳だ」
うわあ インチキくさいなあ
「何がインチキくさいものか 俺は コレを本物だと思うぞ ちゃんと理由もある」
理由って なんです
「その前に その模倣された大本のヴィーナス像の両腕が欠けた時の由来ってのを話したげよう。
もう千五百年以上も昔のことだよ とある名工がいてね。 彼の作った彫刻は 本物そっくり 本物よりも本物らしく 生物以上に生々しかった。 そんな彼が ヴィーナス像を作った。 まるで本物 生きてるようで 美の女神が乗り移ったかのよう。 虜になる男も数多 恋人を捨ててまで崇める男もいたそうだよ。 で 嫉妬に狂ったのが 恋人に捨てられた女。 彼女にしてみりゃ たかが石の像に恋人を奪われた訳だから面白いわけがない この憎いヴィーナス像を貶して謗って穢してやろう ってことで ある夜 道具片手に忍びこみ。 鈍器で鼻の頭をコチンとやって 二目と見られぬ面にしてやろう と 鈍器を振り上げた。 けれども それを振り下ろす事 できなかった。 なんでだと思う? 正解は この箱の中」
立ちあがった久冨さん 腰掛けていた木箱の蓋を外して見せてくれた中身は
「次の日の朝 彼女は発見される。 生きているようなヴィーナス像に 首を絞められて断末魔を叫ぶ姿でね。 痙攣する彼女の首からヴィーナス像の手を外そうとしても外れず 仕方なく ヴィーナス像の両腕を切り落としたけれど手は首から外れず一層食いこむばかり。 神罰か何かの所為か 彼女は息絶えることも出来ず 死ぬ間際の断末魔を叫び続けて 現在に至る」
箱の中身 飛び出た目玉 土色の顔 ひゅうひゅう漏れる断末魔 首にしっかりと食い込んだ大理石の両腕 ソレをもぎ離そうとガクガク痙攣 死に続けている異人の女性 ゴロゴロともんどりうって 箱の内側 ゴツゴツと体当り。 先刻からの音はコレか
「千五百年以上も昔から コレから先の永遠 死に続ける彼女の他に 俺がこの両腕が本物だと思う理由は 何か必要かねえ?」
2023-01-17(Tue) | 未分類 | comment : 0 | Trackback : 0 | △
蒸し暑い季節となりました。
仕事 終わって帰宅して ドア 開けた途端に噴き出すほどの篭った熱気にほとほと嫌気がさしまして。 冷房なんてブルジョアなモノ 部屋になくて。 そうだ こんな時には夕涼みに出掛けよう 夕涼みにはうってつけな 秘密スポットが近場にあるのです。
冷蔵庫から取り出したる 冷えた缶ビール片手に徒歩5分 石段登った神社の裏手 うっそう繁る森の陰 小さな池がありまして。
小さいけれど 昼間に星を映すほどに深い その池 丁度今ごろ 夕間暮れを過ぎて星がでてくる頃合 蛍火にも似た 陰気に瞬く青い燐光 池の底にきらめいて見えるのです。
薄暗いなか陰惨と明滅する青白い光と 森から吹いてくる涼しい風とが相俟って 今にも幽霊が出てきそうな雰囲気 肝が冷えて夕涼みには良い塩梅で。
どれ 光の蠢く様子をサカナにビールを飲もうか と 池のほうに近付くとですよ 女の子の声がします。 ま まさか もしかしたら女の子の幽霊が! などとビックリしかけたのですが 聞き覚えのある声 草陰に隠れてヒョイと覗いた池の端 学校帰りと思われる女の子二人。
「ほんとだ ひかってる!」
「ふふん すごいでしょ」
なんて 二人して池を覗きこんでいる女の子の片方は 僕ん家の近所に住んでるサツキちゃんじゃあないですか
ああ この間 夕暮れ時に寂しそうにしていた鍵っ子のサツキちゃんを誘って遊んだとき ココの事を教えてしまったのだ あんなに『二人だけの秘密だよ』って約束したのに もう サツキちゃん クラスの友達にばらしてしまったのかい ねえ
「ねえ なんで池の底がひかってるの?」
「んっとねえ この池には『水蛍』がいるんだってさ」
「水蛍?」
「あたしの近所の男の人に教えてもらったんだけど なんか 発光する原生生物の一種らしい ってさ。 水の中に蛍がたくさんいるみたいに きれいにひかってるでしょ」
「うん ほんと きれい 星みたいのが いっぱい」
「近所の男の人 『ガラドリエル奥様の水盤に映る星のようだろう』 だなんて よくわかんないこといってたけど ね」
「そうね」
星みたい だなんて。 水蛍は そんなロマンティックなものじゃないのですよ。
アレは 厭らしい屍骸の光りなのです ウネウネの原生生物が 動物などの死体にビッシリと食いこんで 消化するときに発する光なのです。
「今度 クラスのみんなを連れてこようよ。 理科の先生も連れてきてさ」
「あ いい考えねえ。 教室の水槽で飼えるんなら 飼おうよ」
だなんて なんてことを云っているのでしょう 彼女達は。 僕の秘密の場所に みんなを連れてくるって アレがばれたら どうしてくれるんです
第一 彼女達は気が付いていない 池の底 揺れる燐光 それらがみんな 人間の形をしてるってこと 彼女達は気付いていないのだなあ ああ サツキちゃん 君も 前の女の子達と同じく 僕との約束を破るからいけないんだ。
サツキちゃん 君と 君の友達 一緒に あの光の仲間にいれてあげるよ ねえ
2023-01-16(Mon) | 未分類 | comment : 6 | Trackback : 0 | △
『月光条例でオッパイが見れたらうれしいキャラクターランキングに変動がありましたよ』
へえ 良かったねえ だから黙っててくれるかな と 僕 心の中で呟きます。
『キガタガキタRってタイトルの薄い本を書くか描いてみませんか 内容は真淵沢妖湖がいつものように鬼形冥にパンツを見せようとしたところ悪霊の仕業によりパンツが脱がされていて! それが恐怖新聞に予言されてて防ごうとする鬼形冥であるが…?!』
誰が得をするんだろう そんなの。 ああ 僕の耳元にヒソヒソヒソヒソ囁いてきて いい加減に黙って欲しいけれど 誰に黙れと云うべきでしょうか 振り向いても誰もいないのに。
何時の頃からか 僕が一人でいると 僕の耳に ブツブツ呟く声が聞こえるようになりました。
『筋子のおにぎりと見せかけて 中にイチゴジャムを入れてやるのだ ああ なんて私は全人類にとって迷惑な存在なのだ』
誰に向かって呟かれているのか 見知らぬ誰かの独り言のような 性別不明正体不明の声。 周りをキョロキョロ見渡しても誰も居ず 僕が何者かと誰何しても何も応えず。 空耳かなあ なんて思ったけれども 随分とはっきり聞こえます これは 心の清い人にしか聞こえないという妖精の声なのでしょうか それとも僕の頭がトチレテしまって聞こえる幻聴の類なのでしょうか。
『平沢進氏の中身そのままに美少女化したら……? ある!』
ないよ いや あるのかなあ なんて風に呟きに大して心の中で反応しているうちに 何処か独り言めいていた呟きは 僕個人に向かって囁かれるようになりました。
『そろそろ どの田村ゆかり氏が世界一可愛いのかを決定しようじゃないか…… ダメだ! 天使過ぎて決められない! 田村ゆかり氏の膝小僧の裏っ側をペロペロしたいよ!』
うわあ 変態にも程があるぞ。 今日も今日とて 仕事で残業中 職場には僕一人 仕事に集中したいのに さっきから僕の耳元 声が聞こえ続けます。
『今流行の薄い本はどんなんですか 男性向けとか女性向けとかどうなんですか やっぱりアレですか 女性向けは耽美で華奢な男同士がねちっこく絡み合うんですか 男性向けはアレですか 田亀源五郎先生作みたいな髭マッシヴの男同士がグムゥとかグォオとか そんなんですか』
男性向けも女性向けも どっちも男同士じゃないですか。
『アレですよ 「上の口は生意気云ってても 下の口は正直だな」的なやつのバリエーションを新たに考えましょうよ 「昼の顔はジャコバン党でも 夜のグランダルメは地上最強だなっ」とか そんなの』
それじゃあ もう意味がわかりませんよ
「それじゃあ意味が通じないんじゃないのか」
ええ そうですよ うぇあ ええ?! 先輩 何処から出てきたんです?
「いや さっきから其処の物陰で黙って残業中だったのだが それよりなんだ 夜のグランダルメって」
いや 僕に聞かれても。 え て事はですよ 先輩 あの声 聞こえてたんですか? 僕にしか聞こえない幻聴か何かの類だと思ってたんですけれど あの 妙テケレンな内容の戯言 先輩にも聞こえるんですか
「聞こえるも何も あんなにデカイ声 聞こえないほうがオカシイが」
何ですって じゃあ あの声は いったい何なのでしょう もしかして 幽霊か妖精の声 だったりするのでしょうか
「そんなんじゃないぞ 何がどうなって幽霊とか妖精とかになるんだ アレは さっきからブツブツおかしな事を云っているのは お前だぞ お前が お前の口から お前自身の声で 誰か何かに向かって語りかけていたんじゃないのか」
2011-09-02(Fri) | 未分類 | comment : 4 | Trackback : 0 | △
「ふうん あなたの好きなタイプの女の子 を訊いて判ったことがあります」
と 彼女は云いました。
「あなたは 眼鏡を掛けた女の人が好きで 胸が小さい女の人が好きで 幼児体系の女の人が好きで 引っ込み思案な女の人が好きで ちょっと不器用な女の人が好きで 後ろ向きな女の人が好きで 戸川純の歌に出てくるような肥大しすぎて自重で崩壊しそうな精神質量を持ってるような女の人が好きで さだまさしの雨宿りとか親父の一番長い日とかの歌に出てくるようなちょっと不細工を甘弄りされてるような女の人が好きで トラウマまみれでひねくれ捻じ曲がった私のことが好きで」
え ええ そうですけれども
「あなたが好きなタイプ 好きなポイントって 好かれる人にとっての弱点ですよね コンプレックスですよね 触れられたくないところですよね 突かれるポイントとタイミングによっては再起不能になるくらいダメージを与えるところですよね あなたは そのタイミングを狙って その弱みに付け込んできましたよね。 あなたの好きな人ってのは 弱みのある人ですよね あなたが手軽に弱みを付け込める人ですよね。 最低です あなたは 好意のあるようにみせかけて その実 どうしたらあの獲物にありつけるのかを画策する小ずるい肉食獣の目をしていますよね 弱ってる人のところに仏像とか壷を売りつけにくるような人ですね あなたって」
そ そんなことありませんよ?!
「けれども そんな人として最低なあなたのことを 私は嫌ってはいません むしろ好んでいます あなたの 馬鹿なくせに小賢しいふりをしているところが好きです サディストを気取っていても防御に回ると弱いところが好きです 強気なくせに出会い頭の一発を貰うと途端に弱腰になるところが好きです 傷つけることは平気なのに傷つけられることには我慢できないあなたのことが好きです あなたを傷つけることが好きです あなたの心の一番奥底に隠してある チッポケなプライド 笑い事にされたくない小さな夢 誰かに向けるささやかな愛情 私にとってはどうでもいいソレラを ガリガリ削ってグリグリ抉ってズタズタ引き裂いてポイ捨てするのが なにより好きです 私が傷つけるソレラはあなたの心の一番奥にあるのですから あなたの受ける心はそれだけ深く傷つきます そんな時のあなたの顔 実に良い 泣きそうに歪んで笑って見える 絶望とか苦痛とか諦念とか綯交ぜになったその顔 みてると私のお腹の下の辺りが熱くなります あなたのそんな顔 もっと見たい あなたの心を傷つけたい あなたの心を私のつけた傷で一杯にしたい 好きです あなたを傷つけていいのは私だけなのです」
僕 彼女の乗る車椅子を後ろから押しているから 今の僕の泣きそうに歪んだヘンテコな顔を彼女に見られることはないのだけれど あれれ おかしいなあ 僕 こんなに彼女から酷いことを云われて心がへし折られて胸がズキズキ痛むのに なんでこんなに下半身の棒状の罪が こんなにも熱く硬く滾って迸っているのでしょう。
2011-07-28(Thu) | 未分類 | comment : 28 | Trackback : 0 | △
とあるテレビ局の視聴者参加型のオーディション番組。 司会の男の紹介で出てきた彼 見るからに垢抜けない田舎者 身の丈にあっていないツンツルテンの衣装 訛りの酷い朴訥口調 ああ こりゃあ期待できないなあ と 苦笑いの審査員一同。
今日は何を? との司会の問いに たどたどしく答える彼。
「今日 うだ 唄い ます。 わ うだ唄うしか 能のねェオドコだはんで 今日 こごさ うだいにきたんだっきゃ」
え? なんて云ったの? 的な ハルクホーガン的なポーズをとる司会者審査員の面々。 けれども 彼 訥々と続けます。
「わ うだう切っ掛けさなったのは 三つあるんず。 一つ目は オトッつぁんの仕事の音 大工のオトッつぁんの ノミどゲンノでただぐリズムが 小せえ時がら わさ刻み込まれできたんず。 二つ目は オッカつぁんがうだってけだ子守唄 わが寂しいよう寂しいようって泣ぐたびに聞がせでけだ あの優しいオッカつぁんの子守唄。 三つ目が一番でっけえ切っ掛け。 貧乏暮らししてだ わんど家族が暮らしでだ下宿屋の 一つ上の階に住んでらった 口の利けないヴィオルン弾ぎの男 エーリッヒッつぁんが 夜な夜な弾いでだ この世ならぬ音楽。 この三つのおかげで 今のわが在るんず。 この三つに この歌どば捧げるんず。 んだば聞いでけじゃ」
伴奏もなく ただ朗朗と 歌いだす彼。 嗄れた喉から血を吐きながら唄う声 歌声というよりは鳴声 声というよりは音色 人の喉では到底発することの出来ない 甲高く澄んだ金管楽器の如き 不協和音 音が歪み 空気が歪み スピーカーのハウリングとも重なり複なって もはや人の耳には聞き取れない 歌 人ではない何かに聞かせるための 歌。
あっけにとられていた司会者審査員一同 男の歌に声も出ず ぐらりと揺れて ぶるぶる振れて がくがく震えて 目鼻口耳から止め処なく透明な液を漏らして 透明な液は徐々に赤黒く粘り気を増して 崩れて解けて溶けて変わって化けて。
ブツン。 見るに耐えない惨状を映すテレビの画面は唐突に消える。 彼が歌いだして間も無く テレビのスピーカーは聞くに堪えない高音を奏でた後に沈黙し 何の音も伝えて来なかったけれど 歌う彼の姿と変容する司会者審査員の姿だけを映していて。
おや 故障かなあ 音どころか映像も観れない それにしても 変な番組だったなあ 他の番組も映らないのかなあ と リモコンを弄る視聴者。
その番組をみていた視聴者全ての背後から この世ならぬ 甲高いフルートのような音色が聞こえる 白痴めいた唸り声が聞こえる 虹色 オーロラ色 宇宙色の光が 部屋の中を照らす。
その時から 世界が解れて崩れた。
2011-07-07(Thu) | 未分類 | comment : 5 | Trackback : 0 | △
人が 行方知れずになる前触れ先触れには 何かに呼ばれる感じがする と云います。
ある日 遠くの山が やけに近く見えた という人は 山に呼ばれているそうです 彼女はフラリと着の身着のままで出かけ 行方不明になりました 最後に目撃されたのは 登山道の入り口 彼女 普段着にサンダル履きでスタスタと散歩にでも行くように 山を登っていって それっきり。
ある時 耳鳴りがする ざざざ ざざざ と潮騒のような耳鳴りがして 波のような音がどこからか聞こえるような気がした という人は 海に呼ばれているそうです 僕の隣を歩いていた彼女は 『波の音がする』 と どこからもそんな音は聞こえないのに そんな事を云って 僕をその場に置いて いきなり駆け出して 追いかける僕を物ともせず 風のように居なくなってしまい ソレっきり。 隣の県の何処かの海岸 波打ち際に 彼女の物であるバックと靴と衣服が散らばっていてるのが見つかっただけです。
さて 僕 なんでこんなことを云ってるのかといいますれば 昼間のことです。
僕のことを 何かが見ている すごく見られてる 周りを見渡しても 誰とも目が合わず 誰も僕のことを見ていないけれども ずっと視線が纏わりついていて。
ああ 鬱陶しい どこから見られているのだろう と 気配を探っていると 視線の元は 真上から。
真昼の月が いやに大きく 僕を睨んでいて それで僕は 部屋から出られない。
2011-06-27(Mon) | 未分類 | comment : 3 | Trackback : 0 | △
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